スタッフ日記 | マラソン選考の疑問

平成24年3月28日(水)

 3月12日、揉めに揉めた男子マラソンのオリンピック代表選手が決定した。代表は東京マラソンで2位に入った藤原新(東京陸協)、びわこ毎日マラソンで4位の山本亮(佐川急便)、5位の中本健太郎(安川電機)に決定。
 
 圧倒的なタイムで優勝できればよいが、なかなかそれは難しい。となると、オリンピック選手として選ばれるためには、複数の選考レースでよい成績をおさめる必要がある。というのもたとえ優勝したとしてもタイムが悪かった場合は選ばれるかどうかわからないからである。このため選手は代表内定までに厳しいスケジュールの中、複数の選考レースを走ることになる。

 その結果、複数レースに出場したことが裏目に出る場合もある。市民ランナーの星、川内優輝選手は12月の福岡国際で驚異的な走りを見せたものの、最後の選考レースであるびわ湖毎日マラソンで思うような結果が出せなかったこともあるのか、代表の座を射止めることはできなかった。

 毎回思うのだが、「いったい誰がオリンピック代表になるのか」は蓋を開けてみるまでわからない。決定権は五輪代表選考理事会や日本陸連らのブラックボックスの中。はっきりした選考基準が明示されていないだけに、選手の心労はどればかりか。 また藤原氏や川内氏のように実業団に所属しないランナーに対する風当たりが強いのも納得できないところ。もっと意識を変えてほしいと思う。




 ロンドン五輪の男女のマラソン代表が決まった。男子は東京で2位に入った藤原新(東京陸協)、びわこ毎日で4位の山本亮(佐川急便)、5位の中本健太郎(安川電機)、女子は大阪で優勝した重友梨佐(天満屋)、横浜を制した木崎良子(ダイハツ)、それに名古屋で2位に入った尾崎好美(第一生命)の各3選手が選ばれた。補欠は男女とも昨年の韓国・大邱であった世界選手権入賞組の堀端宏行(旭化成)と赤羽有紀子(ホクレン)となった。

 選考の結果は至極、順当といっていい。しかし、今回の一連の選考会は、実はこれまでになかった問題を新たに提起することになった、といっても過言ではない。

 それは、複数の選考レースに出場した有力ランナーが目立ったという点にある。つまり、最初に出たレースで思うような結果が残せなかったために、残りの選考会で再度、チャレンジする、というパターンの選手が増えたのである。

 たとえば、男子では川内優輝(埼玉県庁)がそれに該当する。昨年の世界選手権をはじめ、国内最初の福岡国際、さらには東京と選考レース4大会のうち、3大会を走った。このほかにも、大阪や防府でフルマラソンを走っている。ほかには、今井正人(トヨタ自動車九州)も福岡の後、びわ湖で再チャレンジした。女子にしても、代表に選ばれた尾崎は世界選手権、横浜、名古屋の3大会を走破している。








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やはりというべきか。揉めに揉めた男子マラソン・五輪代表選考理事会(3月12日)までの顛末。その予兆はあった。

 東京・渋谷区にある日本陸連。数日前から五輪選考についての問い合わせ電話が殺到していた。「世界で戦える選手に五輪切符を与える」という陸連のあいまいな選考基準についての疑問だった。

 小誌が幾度も指摘してきた通り、この基準は見方によってはどうとでも取れるのだ。例えば、日本陸連の理事・瀬古利彦氏(55)はびわ湖毎日マラソン(3月4日)で日本人1位(全体4位)になった"飛脚ランナー"こと山本亮(佐川急便)について、

〈本人が一番びっくりでしょ。この雨の中、タイムはいい。だけどレースの内容は褒められたものじゃないね。前を行く選手を追い掛けて行っただけだから、強さを感じない〉(日刊スポーツ・3月5日)

 と激辛だ。2時間8分44秒のタイムにほとんどのマスコミが"当確"を打ったが、それを全面否定するコメントである。では、瀬古氏のいう五輪で勝てる条件とは何か。

〈五輪は夏のレースだし、途中のペースアップも半端じゃない。だから粘れる人であり、世界を経験している人がいい〉(同)

 粘れる人、世界を経験している人。そう聞いてまっさきに浮かぶのは福岡国際(2011年12月4日)の川内優輝(埼玉県庁)の激走だろう。

 公務員というハンディを背負うにもかかわらず今井正人(トヨタ自動車九州)、前田和浩(九電工)ら実業団エリートと競り合い、日本人最高位となる3位を獲得した。18位ながら世界選手権(大邱)も経験している。

 だが、川内についても瀬古氏は辛辣だった。レース終了後のコメント――。

〈好勝負のように見えてレベルが低い。だから、手に汗握らなかったよね。(中略)しかし(川内の走りは)「何もんだ走法」だな。僕は宗さんと並ぶと呼吸を消していた。楽なように思われるためにね。でもアイツはやかましい。まわりの空気も全部吸って、並走ランナーの魂まで抜いちゃってる感じだよね。今井や前田もド肝抜かれただろう。忍者よりすごいよ〉(同・12月5日)

 また、瀬古氏が解説を務めた東京マラソン(2月26日)では、川内が失速した22~23キロ過ぎの場面において、「川内選手は、キツイ顔をしてます」「余裕がないですね」と熱く実況。

 ネット上は、「川内が遅れだしたら、何故か瀬古が喜んでいた」といった話題で盛り上がった。瀬古氏が手厳しいのは川内だけではなかった。

 今回の選考レースで川内とともに話題を呼んだ藤原新(30)は、JR東日本陸上部などを経て、現在は「無職ランナー」である。東京マラソンでは、同じ非実業団ランナーの川内を退け2位。タイムも2時間7分48秒と今季日本人トップ。だが、瀬古氏は川内がレース中、給水ボトルを取り損ねたことに触れた後、こう続けた。

〈実は、川内の危うさは藤原にもあるんだ。ともに実業団に属さず、1人で走っている。勢いがある時はいいが、つまずいた時に修正が利かない。監督やコーチがいないからね〉(同・2月27日)

 川内、藤原ら非実業団ランナーへの辛口コメントは、瀬古氏個人というよりも、日本陸連を代弁した意見のように聞こえて仕方がな